ペコリーノ種とは?
ペコリーノは、主にイタリア中部のマルケ州やアブルッツォ州といったイタリア中部原産の土着品種です。地域によってさまざまな名前で親しまれ、モッショーロ、ノルチーノ、プロモーティコなど、ラベル記載されている品種名のバリエーションも多く、なかでも、最も広く知られて使われている「ペコリーノ」という名前は、羊(イタリア語で “pecora”)がこのぶどうの実を好んで食べていたことに由来しています。羊たちは季節の移動中にこの実をつまんでいたようです。可愛い話ですよね。

ペコリーノの葉はとても美しく、丸くて重なり合う切れ込みがあり、葉脈にはほんのりピンク色がさしています。秋になると鮮やかな黄色に色づき、熟した房は比較的小さくて、実も小粒で淡い緑色からやや黄色みがかった色合いに変わります。また、病害に強く、気候変動が激しい近年でも栽培しやすい品種です。
ペコリーノワインはとてもアロマティックで、かつてはリースリングと混同されていたほどです。高い酸味と豊かな香りが特徴で、洋ナシやリンゴ、グリーンメロンのようなフルーティーなアロマに、セージやミント、タイムといったハーブのニュアンスが感じられ、さらに、ミネラル感が豊かでしっかりとしたボディで、食事との相性も抜群です。

なお、ほぼ単一品種で醸造されることが多く、特に高品質なペコリーノワインが生まれているのが アブルッツォ州 です。
また、ちょっと意外かもしれませんが、実はこの地域では素晴らしいリースリングも産出されています。
アブルッツォのペコリーノワインの特徴
イタリア南部といえば、太陽や海、穏やかな気候を思い浮かべるのと同様、アブルッツォもアドリア海に面した南の地域というイメージが強いかもしれません。漁師小屋の “トラブッキ” が有名ですが、実は山がとても多い地域でもあります。
州都ラクイラは標高720mにあり、北イタリアの南チロル地方の州都ボルツァーノ(標高262m)よりもずっと高い位置なんです。この高い標高を生かして、香り高く酸味のある白ぶどう品種であるペコリーノやリースリングなどの冷涼な気候を好むぶどうが、この地で見事に花開いているんです!

ペコリーノワインはアロマ、塩味、そしてフレッシュさがあるやわらかいタイプの羊乳や山羊乳のチーズと食べ合わせの相性が抜群です。カプリーノ、リコッタ、ブッラータ、ストラッチャテッラなど、クリーミーなチーズとよく合います。
逆に、熟成されたペコリーノチーズやパルミジャーノのような塩味の強いチーズは、ワインとのバランスが取りづらくなるので避けた方が無難です。
また、卵料理とも好相性。卵のほんのりとした甘さがワインの酸味と調和します。
ペコリーノチーズの特徴と種類
ペコリーノといえば、多分チーズの方が名が知られているかもしれません。ペコリーノチーズは、羊の乳から作られるイタリアの伝統的なチーズで、地域によってさまざまな種類があります。

名称 | 生産地 | 味わい |
---|---|---|
ペコリーノ・ロマーノ | ラツィオ州 サルデーニャ州 | 塩味の強いチーズで、カルボナーラやアマトリチャーナなどのパスタ料理に欠かせないチーズ 。 |
ペコリーノ・サルド | サルディーニャ島 | ハードタイプ。まわりをオリーブオイルでコーティングして熟成させているので旨みが凝縮しています。塩分のバランスがとてもよく、そのままテーブルチーズとしても。 |
ペコリーノ・トスカーノ | トスカーナ州 | フレッシュなものから熟成されたものまであり、上の2種に比べ、塩味が穏やかで、そのまま食べても美味しい。 |
ペコリーノ・シチリアーノ | シチリア島 | セミハードタイプ。フレッシュなタイプから熟成が進んだタイプまでさまざまな種類があり、どのタイプも香り高くスパイシーさがあるのが特徴。黒胡椒、唐辛子、オリーブなどを練り込んだ種類なども。 |
ペコリーノ・ディ・フィラーノ | バジリカータ州 フィラーノ | 一般にはあまり知られていませんが、非常に濃厚な風味豊とコクのある味わいが特徴。 |
ペコリーノ・クロトネーゼ | カラブリア州 クロトーネ | 表皮をオリーブオイルの絞りかすで拭きながら熟成させるのが特徴。長期熟成したタイプが一般的で、塩味が強すぎず、旨みとマイルドな甘みのバランスが◎。 |
ペコリーノ・デッレ・バルゼ | トスカーナ州 | 原料が新鮮な羊の乳と植物の凝固剤のみという点がユニークなペコリーノチーズの一種。味わいは他に比べ繊細でマイルド。 |
ペコリーノ・ディ・ファリンドラ | アブルッツォ州 | 豚のレンネット(凝固剤)を使う唯一のチーズ。甘くてマイルドな味になるのが特徴で熟成させても辛くならない。 |
ペコリーノ・デル・モンテポーロ | カラブリア州 | 標高 約700m にあるモンテポーロで作られるチーズ。比較的フレッシュで熟成感は薄く、ヘーゼルナッツと少しのスパイス感を感じる味わい。 |
ペコリーノワインとチーズのペアリング
ペコリーノワインとペコリーノチーズは、同じ名前を持ちますが、ペアリングの相性としては(意外と?)難しいところがあるようです。
前出したように、ペコリーノワインは高い酸味、豊かな香り、フルーティな味わいが魅力です。チーズのペアリングとしてはフレッシュさがあるやわらかいタイプの羊乳や山羊乳のチーズと食べ合わせの相性が抜群です。例)カプリーノ、リコッタ、ブッラータ、ストラッチャテッラなど
では、ペコリーノチーズに合わせるワインはどんなものが良いのでしょうか?ペコリーノチーズの種類別に見ていきましょう。
名称 | 合うワインのタイプ | TAPS おすすめワイン |
---|---|---|
ペコリーノ・ロマーノ | 熟成感と塩味が強いので、スムースな赤ワイン | バルベーラ DOC など |
ペコリーノ・サルド | フレッシュで少し甘みもあり、脂味を感じるタイプなので、伝統製法スパークリングワインとの相性が抜群 | アルタ・ランガ DOCG など |
ペコリーノ・トスカーノ | 若いチーズから熟成されたチーズにも合うのは、香り豊かでスパイシー感もある白ワイン | ペコリーノ DOC |
ペコリーノ・シチリアーノ | 主に長期熟成されたチーズが多いので、しっかりとした骨格を持つ白ワイン | ランゲ・ビアンコ DOC など |
ペコリーノ・ディ・フィラーノ | 長期熟成タイプでスパイシー、香りも強いので、スムースな赤ワイン | マルベック など |
ペコリーノ・クロトネーゼ | 少しスパイシー感もある、中程度の熟成チーズなので、フリッザンテ が相性抜群 | ピノ・ネロ フリッザンテ |
ペコリーノ・デッレ・バルゼ | 植物性の凝固剤を使った繊細な味わいのチーズなので、スパークリングワインがよく合います | コネリアーノ・ヴァルドッビアーデネ・プロセッコ DOCG ブリュット など |
ペコリーノ・ディ・ファリンドラ | シンプルでアロマティックな赤ワイン、は完璧な組み合わせ | モンテプルチアーノ・ダブルッツォ DOC |
ペコリーノ・デル・モンテポーロ | スパークリングロゼの爽やかな香りと味わいと組み合わせると最高 | メトドクラシコ ROSE |

まとめ
ペコリーノワインとチーズは、イタリアの食文化の豊かさを象徴する存在。それぞれ単独でも魅力的ですが、組み合わせることで新たな味わいの発見があり、より豊かな食卓にしてくれます。
最後に、ちょっと面白い豆知識をひとつ。
ペコリーノという品種にはとても古い歴史があり、実は 1526年にさかのぼってペコリーノぶどうについての文献が見つかっています。その文書には、「畑に損害を与えた者には10ソルディの罰金を科す」、さらに「それを目撃した者が報告しない場合も同じ罰金を支払う」と記されています。 ペコリーノぶどうは、それほどまで当時から大切に守られていた品種だったようです。
イタリアワインは、各地域の地ぶどうによる味わいの広さが特徴といえます。ペコリーノワインに出会えたら、ぜひその味わいを楽しんでみてくださいね!
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