Contents
日頃飲んでいる美味しいワイン。
そのワインを造る生産者の人柄や、ワイン生産に対する思い、
これからの展望を知ることで、イタリアワインシーンや各社の違いを楽しんでもらいたい。
ということで、TAPS とお取引のある生産者さんとのインタビューシリーズです。
その第一弾として、 TAPS のワインラインナップの中でも最もおつき合いの長いワイナリー、
ピエモンテ州アスティ県カネッリにてワイン生産されている、ガブリエレ・スカリォネ氏 をご紹介します。
彼がワイン造りを始めた理由や、ワイン造りへのこだわりを知って、ぜひ彼のワインを飲んでみてください。
(最後にワインのご紹介があります!)
インタビュアー:キャラ・バッシ / Chiara Bassi
C:ガブリエレさん、こんにちは。
本日は日本のファンへ向けて、ワイナリーのバックグラウンドやワイン造りへの情熱、今後の展望など、教えてください。よろしくお願いします。
ワイン生産者としてのキャリア、生産者になった理由
C:まずワイン生産者としてのキャリアについて教えてください。また、ワイン生産者として生きて行くことを決めた理由について教えてください。
G:私は生まれた時からずっと、ワインの世界で生きてきました。
カネッリ(ピエモンテ州アスティ県の世界的ワインの銘醸地)に生まれたことで、朝から晩までワインの芳醇な香りと共に生活し、農家の苦労やワイン造りの素晴らしさを知る貴重な体験を、人生の早い時期に得ることができてとてもラッキーでした。
街中には何軒ものワイナリーがあって、搾りたての果汁や醸造中のマスト(ブドウの果醪)の香りを常に感じていました。
子供の頃から父と街に出かける時は、常にブドウの育ち具合や収穫時期について話をしているほど、カネッリの街はワインと生活が密接に結びついていました。
そんな地域で育つうち、自然と自分の中にも、将来は自分の畑を持ってワイン造りをしていきたいという夢が芽生え始めました。
学業を終え、私が働き始めたのは、大規模な多国籍ワイナリーでした。何年もかけてワイン造りを学びましたが、次第に生産量と利益を追求する大企業のやり方に馴染めなくなっていることに気づきました。そこで、本来自分がやりたかった 品質と信頼性、消費者のウェルビーイングを大事にしたワイン造りをするために独立し、自分のワイナリー設立に向けて奔走しました。
ラッキーなことに、まもなく望んでいた場所のブドウ畑を持つことができました。特にロエロ地区ではエレガントなワインを生み出す、ユニークで素晴らしい土壌の畑を手に入れ、そこからゆっくり時間をかけながらワイン造りを始め、今日では小さいセラーも建てることができました。
栽培するブドウで好きな品種
C:あなたが栽培している様々なブドウの中で、最も好きな品種はなんですか?
G:一番好きな品種を決めるのはは難しいですね。どうしても 1つ選ぶなら「ネッビオーロ」です。
ネッビオーロはブドウとして素晴らしいだけでなく、味や香りに様々な側面があり、ベーシックな赤ワインから、伝統製法のスパークリングワイン、もちろんバローロ DOCG にもなるなど、多様性の面から見ても、他に並ぶものが少ないブドウで、私のワイン造りには欠かせない品種です。
ワインの生産方法とその理由
C:今日のトレンドではオーガニックワイン、ビオダイナミックワイン、ナチュールワインなどが人気ですが、あなたのワイナリーではどのような方法でワインを生産していますか?また、その理由をお聞かせください。
G:ワインを造る上で最も大切に考えていることは、いかなる毒素も土壌に加えないことです。なぜなら、土から育ったブドウを使ってワインを造るからです。
ただし、自分のワインのラベルにオーガニックと記載したり、流行りとしてのビオダイナミズムやナチュールワインを追求することは好きではありません。そもそもナチュラルなワインというものは存在しないと考えているので、もしワインに何も加えず、ブドウの房をそのまま潰しただけだとしても、スチールやコンクリート、木樽などの容器に入れた瞬間、ワインには何かしらの変化が起こるものです。
私の造るワインは、’オーガニック’、’ビオダイナミック’、’ナチュール’ と名前がつくワインではないですが、私のブドウ畑ではさまざまな防除対策を組み合わせて行う IPC ( Integrated Pest Control – インテグレーテット・ペスト・コントロール)という方法で、あらかじめ防除対象生物を決め、場所ごとに管理基準を定め、状況に応じた適切な防除対策を化学防虫剤を使わずに実施し、さらにその効果をきちんと判定する方法をとっています。
国際的なトレンドや基準ももちろん重要ですが、一番大切なのは、ブドウを育てる地域や畑単位で必要な対策を講じることです。一つの基準に当てはめたブドウ栽培より、気候や天候、さまざまな要因に応じてリスクを分析し、必要な対策を実施することが一番だと信じています。
ワインとイタリア料理のベストな組み合わせ
C:あなたが造るワインとイタリア料理の中で、ベストな組み合わせはなんだと思いますか?
G:私は、食前から食後までの食事全部に「スパークリングワイン」を合わせるのが好きで、アルタ・ランガに魚料理や肉料理を合わせてます。
また、赤身の生肉 や 魚の刺身(カルパッチョ)には ランゲ・ビアンコ を、カルボナーラ には バローロ を合わせるのも好きです。
最後に、ピエモンテ州の郷土料理である ミートシチュー と ランゲ・ロッソ は私の大好物の一つです。
日本食とのペアリング
C:日本食とあなたのワインをペアリングしてみたことはありますか? もしあるなら、最も気に入ったペアリングを教えてください。
G:私は日本食には疎いのですが、以前寿司を食べに行った時に、握り鮨 と ランゲ・ビアンコ のペアリングが非常に相性が良かったことをよく覚えています。
その後、白身魚の刺身をポン酢 で食べる機会にも ランゲ・ビアンコ をペアリングしたのですが、一度ですっかり虜になってしまいました!
イタリアでのブドウ栽培の変化と対策
C:気候変動などによって、イタリアのブドウ栽培が将来的にどのように変化していくと思いますか?また、そのような変化に対しどんな対策を考えていますか?
G:気候変動は確かにありますが、それは常に起きていることでもあります。私が小さな頃にも、8月の異常気象はありました。現在の気候変動による気温や気象の変化は、より頻繁でよりその猛威が高まっていると感じますが、かと言って、私たちにはこの場所から移動して、この地域の伝統を別の場所で展開することなどできません。近年の気候の変化に対して戦うのか、それとも従うべきなのかは、まだ決めかねています。
残念なことに、人間はこれまでの歴史の中で、自然との共存よりも戦いを選択してきましたが、気候変動も近年猛威を振るった COVID-19 のように、人間には有害でも、その他の生物や植物にとってはむしろその方が活動範囲が広がり、人間によって抑圧されてきた自然が元に戻ろうとする、プロセスの一部であるかのようにも感じます。
そう考えると、現在の変化をただ見守り、それと共にスタイルを変化させていくワイン造りが、私にとっては自然に感じられます。
今後の新商品について
C:新しい種類のワインをリリースする予定はありますか?
G:いいえ、今のところこれ以上多くの種類のワインを造るつもりはありません。ですが、新しい実験的な試みは常に行なっています。いつかそれが新たなワインとなって世に出る可能性はないとは言い切れませんね。
ワインラインナップの中で一番のお気に入り
C:自身のワインラインナップの中で一番のお気に入りはどのワインですか? それはなぜですか?
G:生産するすべてのワインが私のお気に入りなので、一つに決めることはできませんが、思い入れがあるワインを選ぶとすれば、ランゲ・ビアンコ ”エリス” です。このワインは、かつての愛犬エリスに捧げたワインです。
また、ランゲ・ロッソ “Tutto dipende da dove vuoi andare” は、私が初めて造ったワイン で、とても思い入れがありますね。
ワインメーカーとして経験したおもしろい話
C:ワインメーカーとして、あなたの経験に関連した面白い逸話や興味深い話を教えていただけますか?
G:ある日の早朝、私はランゲ・ネッビオーロを持って、農学者と一緒にブドウ畑に仕事に出かけたところ、そこで、おそらくキツネに噛まれて死んでしまったと思われるハリネズミを畑の真ん中で見つけました。
私は動物好きなので、可哀想なそのハリネズミをブドウ畑の傍に埋め、ちょうど考えていたワインの名前を、このいたいけな動物にちなんで「ブドウ畑の散歩」とし、ラベルのイラストにハリネズミを描きました。
ですが、この名前とラベルのイラストを決めた経緯を友人に話すと、みんな総じてとても悲しい話だというので、現在では少し経緯を変えて、ブドウ畑に遊びに来る小さな動物たちに捧げたワインということにしています。
地元以外のおすすめイタリアワイン
C:あなたがワイン造りをしているエリア以外で、おすすめのイタリアワインを教えてください。
G:私の推しは、プーリア州で造られる カステル・デル・モンテ DOC のロゼ です。
この地方で造られるロゼは、ボンビーノ・ネーロ主体とした色の濃い、すっきりとした辛口のものが多く、ロゼ好きにはたまりません! 機会があればぜひ試してみてください!
1日のルーティーン
C:ワインメーカーとしてのあなたの1日のルーティーンを教えてください。
G:朝は、だいたい 6時30分ごろに目覚め、朝食はコーヒーのみで済ませることが多いです。
ワインのテイスティングを行う日は、遅くとも午前9時くらいから始めます。 午後1時ごろからランチを取りますが、特に来客がないときは、果物と少しのチーズのみで軽く済ませます。
午後は、テイスティングを続けることもあれば、自分の所有するブドウ畑を見て回ったり、オフィスかセラーで同僚と仕事をしています。
1日の終わりは特に決まっていないので、遅い時は深夜近くまでオフィスで仕事をしています。終わらない時は、皆と同じように家に仕事を持ち帰ることもありますが、自営業であればそれも仕方ないことですね。
収穫時期の8月下旬から10月下旬までは、日の出から日の入りまでほとんどを畑で過ごします。それぞれの畑でブドウの熟し具合を見て収穫時期を決めるのですが、収穫前はいつも期待と不安が入り混じった、少しの興奮状態のような感覚になりますね。
C:いろいろとお答えいただき、ありがとうございました!